袴田事件

結末 2024年10月、静岡地裁の再審無罪判決が確定。判決は有罪の決め手とされた衣類などを捜査機関の捏造と認定

発生日 1966年6月30日(昭和41年) 1966年(昭和41年)の事件 / 6月30日に起きた事件
経過 発生から60年3か月 2024年10月9日の確定から2年
発生場所 静岡県 清水市(現・静岡市清水区)
種別 強盗
状態 判決確定
被害 死者 4人
  • 事件が変えた法律・制度再審請求の審理の長期化が問題となるなか、2026年に刑事訴訟法の再審規定が見直され、再審開始決定への検察官の不服申立ての制限や証拠の提出命令が設けられた。
  • 冤罪と再審 — 無罪が確定した事件と再審請求1980年に死刑が確定。第2次再審請求を経て2024年の再審で無罪が確定し、判決は「5点の衣類」など3つの証拠を捜査機関による捏造と認定した。
1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県清水市(現・静岡市清水区)の味噌製造会社の専務の自宅で火災が起き、焼け跡から刺し傷のある一家4人の遺体が見つかった事件。同社の従業員だった袴田巖さんが強盗殺人などの罪で起訴され、1980年に死刑判決が確定した。姉による第2次再審請求で2014年に再審開始と釈放が決まり、2024年9月26日、静岡地方裁判所は再審で無罪を言い渡した。判決は、有罪の決め手とされた「5点の衣類」などを捜査機関による捏造と認定し、無罪は同年10月9日に確定した。再審制度の見直しの議論にもつながった。
袴田事件を象徴する概念イラスト
※イメージ画像(生成AIによる概念イラストであり、実際の現場・関係者を写したものではありません)
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事件の発生と逮捕

1966年6月30日午前2時ごろ、清水市の味噌製造会社の専務の自宅で火災が起き、家屋がほぼ全焼した。鎮火後、専務と妻、長男、二女の4人の遺体が見つかり、いずれも刃物による刺し傷があった。起訴状によれば、犯人は4人を刺したうえで売上金などを奪い、混合油をまいて放火したとされる。同社の従業員で、工場2階の寮に住んでいた袴田巖さんが、8月18日に強盗殺人と放火などの疑いで逮捕された。袴田さんは当初否認していたが、9月6日に警察官に、9月9日に検察官に自白したとされ、同日起訴された。のちの再審判決は、袴田さんが任意出頭してから自白の前日までの19日間、夜中や深夜にまで及ぶ1日平均約12時間の取調べを連日受け、取調室に持ち込んだ便器で排尿させられたこと、自白までの弁護人との接見は3回、合計約40分だったことを認定している。
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「5点の衣類」と死刑確定

1966年11月15日の初公判で、袴田さんは起訴事実を否認した。検察は当初、袴田さんがパジャマを着て犯行に及んだと主張していた。ところが事件から1年2か月後の1967年8月31日、工場の味噌タンクの中から、麻袋に入った血痕の付いたシャツやズボンなど5点の衣類が見つかった。検察はこれを犯行時の着衣だとして、主張を「5点の衣類を着て犯行に及び、その後パジャマに着替えた」と改めた。静岡地方裁判所は1968年9月11日、袴田さんに死刑を言い渡した。この判決は、捜査段階の自白調書45通のうち44通の証拠能力を否定し、検察官調書1通だけを証拠として採用している。東京高等裁判所は1976年5月18日に控訴を、最高裁判所は1980年11月19日に上告を棄却し、同年12月12日に死刑判決が確定した。

再審請求の長い経過

袴田さんは1981年に再審を請求したが、静岡地裁は1994年に棄却し、2008年3月に最高裁も特別抗告を退けた。最高検察庁の検証報告によると、この第1次再審請求の審理には約26年11か月かかった。2008年4月25日、袴田さんの姉が第2次再審請求を申し立てた。静岡地裁は2014年3月27日に再審の開始を決定し、死刑と拘置の執行も停止した。決定は、5点の衣類という最も重要な証拠が捜査機関によって捏造された疑いが相当程度あるとし、拘置をこれ以上続けることは「耐え難いほど正義に反する」と述べた。袴田さんはこの日釈放された。検察は即時抗告し、東京高裁は2018年6月11日に再審開始決定を取り消したが、最高裁は2020年12月22日にその決定を取り消し、審理を東京高裁に差し戻した。味噌に漬かった血痕の色の変化について審理が尽くされていないという理由で、2人の裁判官は直ちに再審を開始すべきだとする反対意見を述べている。東京高裁は2023年3月13日、1年以上味噌に漬かった血痕の赤みは消えると推測できるとして検察の即時抗告を棄却し、同月21日に再審開始が確定した。第2次再審請求の審理期間は約14年11か月に及んだ。

再審無罪判決

静岡地裁での再審公判は、2023年10月27日から2024年5月22日まで15回開かれた。袴田さんは回復の見込みがない心神喪失の状態にあるとして出頭を免除され、姉が補佐人として出廷した。2024年9月26日、静岡地裁は袴田さんに無罪を言い渡した。判決は三つの証拠を捏造と認定した。一つは、非人道的な取調べによって得られた検察官調書で、実質的に捏造されたものだとした。二つ目は5点の衣類で、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、味噌タンク内に隠されたものだとした。三つ目は、袴田さんの実家から見つかったとされたズボンの共布(ともぬの)の端切れである。そのうえで、これらを除いた証拠では袴田さんを犯人と認めることはできないと結論づけた。

検察の対応と検証

2024年10月8日、検事総長は控訴しないと表明する談話を出した。談話は、袴田さんが長期間にわたり法的地位が不安定な状況に置かれたことに触れて控訴を断念するとした一方、判決が捏造を認定した点については「強い不満を抱かざるを得ません」「到底承服できない」と述べた。無罪判決は10月9日に確定した。最高検察庁は同年12月26日に検証結果を公表し、警察の取調べは任意性を欠くものだったこと、検察の取調べも袴田さんの供述に真摯に耳を傾けたものとはいえなかったことを認めた。存在を把握していなかった5点の衣類の写真のネガフィルムや取調べの録音テープが、のちになって見つかったことも明らかにしている。一方で、検察の即時抗告によって審理が不当に長期化したとは認められないとした。この談話については、国会でも撤回を求める質疑が行われている。

再審制度の見直しとその後

再審請求の審理が長期化した事例が相次いだことを受け、法務大臣は2025年3月、刑事手続の再審に関する規定の見直しを法制審議会に諮問した。その答申を踏まえた刑事訴訟法の改正法は2026年7月17日に成立し、7月24日に公布された(令和8年法律第67号)。改正法は、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを、決定を取り消すべき十分な根拠がある場合に限って認めることとし、裁判所が検察官に証拠の提出を命じる仕組みも設けた。報道によれば、再審に関する規定が改正されるのは1948年に刑事訴訟法が制定されて以来初めてである。袴田さんには2025年3月、静岡地裁が約2億1,700万円の刑事補償を決定したと報じられた。2025年10月には、違法な捜査によって損害を受けたとして、国と静岡県に約6億840万円の賠償を求める訴訟が起こされている。

審理・経過の流れ

  1. 事件・事故 1966年6月30日
  2. 逮捕 1966年8月18日 +49日
  3. 起訴 1966年9月9日 +22日
  4. 判決 1968年9月11日 +733日
  5. 判決 1976年5月18日 +2,806日
  6. 判決 1980年11月19日 +1,646日
  7. 公判 2023年10月27日 +15,682日
  8. 判決 2024年9月26日 +335日

経過

  1. 1966年6月30日
    昭和41年

    事件・事故 専務宅で火災、一家4人の遺体が見つかる

    清水市。4人には刃物による刺し傷があった

  2. 1966年8月18日
    昭和41年

    逮捕 従業員の袴田巖さんを逮捕

  3. 1966年9月9日
    昭和41年

    起訴 強盗殺人・放火などの罪で起訴

    同日、検察官に自白したとされる

  4. 1967年8月31日
    昭和42年

    捜査 味噌タンクから「5点の衣類」が見つかる

  5. 1968年9月11日
    昭和43年

    判決 静岡地裁が死刑判決

    静岡地方裁判所 (事件番号: 昭和41年(わ)第329号)

  6. 1976年5月18日
    昭和51年

    判決 東京高裁が控訴を棄却

    東京高等裁判所

  7. 1980年11月19日
    昭和55年

    判決 最高裁が上告を棄却

    最高裁判所

  8. 1980年12月12日
    昭和55年

    その他 死刑判決が確定

    判決訂正の申立ても棄却

  9. 1981年4月20日
    昭和56年

    その他 第1次再審請求

    2008年3月に最高裁が特別抗告を棄却

  10. 2008年4月25日
    平成20年

    その他 姉が第2次再審請求

  11. 2014年3月27日
    平成26年

    その他 静岡地裁が再審開始を決定、袴田さんを釈放

    死刑と拘置の執行を停止

    静岡地方裁判所

  12. 2018年6月11日
    平成30年

    その他 東京高裁が再審開始決定を取り消す

    執行停止は維持

    東京高等裁判所

  13. 2020年12月22日
    令和2年

    その他 最高裁が高裁決定を取り消し審理を差し戻す

    2人の裁判官が直ちに再審開始すべきとの反対意見

    最高裁判所第三小法廷 (事件番号: 平成30年(し)第332号)

  14. 2023年3月13日
    令和5年

    その他 東京高裁が検察の即時抗告を棄却

    同月21日に再審開始が決まった

    東京高等裁判所

  15. 2023年10月27日
    令和5年

    公判 静岡地裁で再審の初公判

    袴田さんは出頭を免除された

    静岡地方裁判所

  16. 2024年9月26日
    令和6年

    判決 静岡地裁が再審で無罪判決

    5点の衣類など3つの証拠を捏造と認定

    静岡地方裁判所 (事件番号: 平成20年(た)第1号)

  17. 2024年10月8日
    令和6年

    その他 検事総長が控訴しないと表明

  18. 2024年10月9日
    令和6年

    その他 無罪判決が確定

  19. 2024年12月26日
    令和6年

    捜査 最高検察庁が検証結果を公表

  20. 2026年7月17日
    令和8年

    その他 再審規定を見直す改正刑事訴訟法が成立

    7月24日公布(令和8年法律第67号)

出典・公的資料

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「袴田事件」事件JP、2026年10月28日閲覧。https://jiken.jp/cases/1966-hakamada-case/
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更新履歴

  • 2026年10月12日 初版公開

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