ジェイコム株大量誤発注事件 通称: みずほ証券誤発注事件

発生日 2005年12月8日(平成17年)
経過 発生から20年9か月 2015年9月3日の確定から11年1か月
発生場所 東京都 中央区(東京証券取引所)
種別 詐欺・経済事件
状態 終結
2005年(平成17年)12月8日、東京証券取引所マザーズ市場にこの日新規上場したジェイコム株について、みずほ証券の担当者が「61万円で1株」の売り注文を「1円で61万株」と誤って入力した事件。発行済株式数1万4,500株の40倍を超える売り注文で、みずほ証券は直後に取り消そうとしたが東証のシステムの不具合で取り消せず、東証も売買を停止しなかったため、みずほ証券は約400億円の損失を被った。決済は株券の受け渡しが不可能なため、1株91万2,000円の現金決済とされた。みずほ証券が東証に損害賠償を求めた訴訟では、東証にも重大な過失があったとして過失割合を東証7割・みずほ証券3割とし、東証に約107億円の支払いを命じた判決が2015年に確定した。事件を機に、証券会社の発注上限の設定や、取引所が大量の誤発注を受け付けない仕組みが整備された。
ジェイコム株大量誤発注事件を象徴する概念イラスト
※イメージ画像(生成AIによる概念イラストであり、実際の現場・関係者を写したものではありません)
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事件の経過

2005年12月8日、人材サービス会社ジェイコムの株式が東京証券取引所のマザーズ市場に新規上場した。発行済株式数は1万4,500株だった。 東京地裁判決が認定した事実によると、みずほ証券の担当者は顧客からの委託注文を執行する際、「61万円で1株」の売り注文を出すべきところを「1円で61万株」と誤って入力した。端末には価格の制限を超えている旨の警告画面が表示されたが、担当者はEnterキーを2回押して警告を無視し、9時27分56秒に注文が東証に発注された。 約1分30秒後の9時29分21秒、みずほ証券は誤りに気づいて取消注文を出した。しかし東証のシステムには、こうした状況では取消注文が実行されないという不具合があり、取り消しは実現しなかった。その後も売買は成立し続け、約定した株数は9時31分29秒ごろに発行済株式数を超え、9時33分25秒ごろにはその3倍を超えた。 みずほ証券は9時35分33秒から自社の勘定で買い戻しの注文を出し始め、9時37分8秒に売り注文の全数を約定させるのに足りるだけの買い注文を入力したことで、誤った売り注文は板から消えた。東証の売買停止の権限を持つ部署が売買停止を行うべきと判断した時点では、すでに取引は板から消えていた。東証がジェイコム株の売買を停止したのは翌9日である。
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損失と決済の処理

この一連の売買の結果、みずほ証券はジェイコム株を差し引き9万6,236株売り越した状態になった。決済日の12月13日にはこの株数の株券を引き渡す義務が生じるが、これは発行済株式数の6倍を超える数量で、現実に引き渡すことはできなかった。 清算機関である日本証券クリアリング機構は12月12日、放置すれば決済日に大量の決済未了が生じて長期間続き、清算機能が事実上停止して証券市場の決済制度の信頼が失われかねないとして、業務方法書の規定に基づき決済条件を改めた。株券の受け渡しに代えて金銭で決済することとし、その額を1株あたり91万2,000円の「特別決済値段」に株数を掛けた額と定めた。この値段は、誤発注に始まる一連の経過がなかったと想定した場合の価格を基礎として算定された。 みずほ証券の損失は、わずか10分ほどの間に400億円を超えた。誤発注に乗じて利益を得た証券会社や個人投資家がいたことから、こうした利益を正当なものと扱ってよいかという点は国会でも取り上げられた。

東証の責任と訴訟

東証の対応も厳しく問われた。2006年2月2日の参議院予算委員会で、東証の社長は誤発注の際に人の手で取引を止めることは「可能であった」と答弁した。一方で、そうした人為的な手段を発動する手続きがマニュアルに明示されておらず、担当部署にも非常時の覚悟が欠けていたと認め、異常時に取引を停止する権限を持つ「売買監理統括責任者」を同年2月1日付で任命したと説明している。 みずほ証券は東証に対し、取消注文が実行されなかったことなどによる損害として約415億7,892万円の賠償を求めて提訴した。東証側は、取引参加者が取引所の施設の利用で損害を受けても取引所に故意または重大な過失がない限り責任を負わないとする免責規定があると主張した。 2009年12月4日、東京地方裁判所は東証の責任を一部認めた。判決は、取消注文を実行できないシステムしか提供していなかったことに加え、東証の担当部署が9時30分ごろには誤発注の存在を認識しながら、約定株数が発行済株式数の3倍を超えても市場への影響を具体的に検討せず、売買停止を怠ったことを、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態にあたる「重過失」と認定した。決裁や停止作業に要する時間を考慮しても9時35分までには売買停止が可能だったとして、それ以降に約定した株式による損害について東証の賠償責任を認めた。 他方で判決は、株数と株価を取り違える初歩的なミスをしたうえ警告表示を無視し、そうした過誤を防ぐ発注管理体制も整えていなかったみずほ証券側にも重大な過失があるとして、過失割合を東証7割、みずほ証券3割とした。東証に命じられた支払額は約107億円(107億1,212万円余と利息)である。

控訴審と判決の確定

判決当日の記者会見で東証の社長は、「市場のオペレーションについて分単位で責任分割させられて」いるとして難しい判決だとの認識を示し、取引所が他人の注文を勝手に止める権限は本来ないと述べた。また、現在稼働しているシステムでは同様の注文は通らないようになっていると説明している。 控訴審の東京高等裁判所も東証の過失を認め、過失割合を東証7割・みずほ証券3割として約107億円の支払いを命じた。2015年9月3日、最高裁判所第一小法廷は双方の上告を退け、東証に約107億円の賠償を命じた判決が確定した。誤発注から約10年が経っていた。 この判決は、証券取引所が取引参加者に対してどのような義務を負うのか、免責規定のいう「重過失」をどう解釈するのか、システムの開発を請け負った事業者の過失を取引所の過失と同視できるのかといった多くの論点を含むものとして、法学の研究でも取り上げられている。

再発防止のための制度整備

事件を受け、日本証券業協会は自主規制会議と証券戦略会議の合同ワーキングを設け、誤発注の原因を検証して再発防止策を検討した。2006年3月15日に中間整理を公表し、これに基づいて4月18日に理事会決議「協会員における注文管理体制の整備について」を制定、10月1日から施行した。決議は証券会社に対し、注文内容の確認の徹底に加え、一定の条件を超える注文に警告を出す「ソフトリミット」と受け付けを拒む「ハードリミット」の設定を求め、発注制限のかかった注文を再発注する際には管理者の承認を必要とした。 協会は取引所に対しても、上場株式数の30%を超える注文や、新規上場銘柄について公募・売出し価格を一定割合上回る(下回る)注文の受け付けを抑止すること、上場株式数の5%を超える誤発注などについて必要に応じて約定処理を一時中断させることを要請した。これを受けて証券取引所は2006年4月に「取引参加者における注文管理体制に関する規則」を制定し、同年10月1日に施行した。ジャスダック証券取引所の社長も国会で、上場株式数の30%を超える注文をシステムで自動的に受け付けない対応をとると説明している。 ワーキングは2006年11月14日に最終報告「誤発注の再発防止及び発生時における対応について」をまとめ、誤発注が発生した場合の対応についても整理した。

審理・経過の流れ

  1. 事件・事故 2005年12月8日
  2. 判決 2009年12月4日 +1,457日
  3. 判決 2015年9月3日 +2,099日

経過

  1. 2005年12月8日
    平成17年

    事件・事故 ジェイコム株の大量誤発注

    新規上場のジェイコム株で「61万円1株」の売りを「1円61万株」と誤入力。東証のシステム不具合で取り消せず、みずほ証券は約400億円の損失を被った。

  2. 2005年12月9日
    平成17年

    その他 東証がジェイコム株の売買を停止

  3. 2005年12月12日
    平成17年

    その他 日本証券クリアリング機構が現金決済を決定

    株券の受け渡しに代え、1株91万2,000円の特別決済値段による金銭決済とすることを決めた(決済日は12月13日)。

  4. 2006年2月1日
    平成18年

    その他 東証が売買監理統括責任者を任命

    異常時に取引を停止する権限を持つ責任者を任命した(2006年2月2日の参議院予算委員会での東証社長の答弁)。

  5. 2006年10月1日
    平成18年

    その他 誤発注防止の自主規制ルールが施行

    日本証券業協会の理事会決議「協会員における注文管理体制の整備について」と、証券取引所の「取引参加者における注文管理体制に関する規則」が施行された。

  6. 2009年12月4日
    平成21年

    判決 東京地裁が東証に約107億円の賠償を命じる

    東証の重過失を認め、過失割合を東証7割・みずほ証券3割とした(請求額は約415億円)。

    東京地方裁判所

  7. 2015年9月3日
    平成27年

    判決 最高裁が双方の上告を退け、東証に約107億円の賠償を命じた判決が確定

    控訴審も過失割合7対3で約107億円の支払いを命じており、最高裁第一小法廷がこれを維持した。

    最高裁判所

出典・公的資料

一次資料 5件 判決文・白書・調査報告書・法令など、原典にあたれる資料を掲載しています。

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レポート・記事などで本ページを参照する際は、以下の表記をご利用ください。

「ジェイコム株大量誤発注事件」事件JP、2026年10月3日閲覧。https://jiken.jp/cases/2005-jcom-erroneous-order/

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更新履歴

  • 2026年10月3日 初版公開

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