積水ハウス地面師詐欺事件

発生日 2017年4月24日(平成29年) 〜 2017年6月1日
経過 発生から9年4か月
発生場所 東京都 品川区西五反田(旅館「海喜館」跡地)
種別 詐欺・経済事件
状態 判決確定
2017年(平成29年)、住宅大手の積水ハウスが東京都品川区西五反田の旅館跡地の取引で、土地所有者になりすました人物を含む地面師グループに63億819万3309円を交付し、約55億5900万円を騙し取られた詐欺事件。売買代金の支払いを終えた直後に所有権移転登記の申請が却下されて発覚した。グループ総勢10名が詐欺罪等で起訴され、2019年10月から2020年6月にかけて全員が有罪判決を受けた。積水ハウスは外部専門家による総括検証委員会を設置し、2020年12月に報告書を公表している。
積水ハウス地面師詐欺事件を象徴する概念イラスト
※イメージ画像(生成AIによる概念イラストであり、実際の現場・関係者を写したものではありません)
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五反田の旅館跡地をめぐる取引

舞台となったのは東京都品川区西五反田にある土地である。かつて「海喜館」という旅館が営まれていたが長らく営業されておらず、JR山手線五反田駅から徒歩数分という立地の広い土地が都心に残されている状態だった。積水ハウスはここを分譲マンション用地として取得しようとした。ただしこの取引は、土地の所有者から直接買い受けるものではなく、第三者が設立した個人会社を介して購入する形になっていた。のちに総括検証委員会が指摘するとおり、この仲介者とその個人会社には信用すべき取引実績がなく、積水ハウスはその信用に依拠することができない立場にあった。真の所有者からの真正な売買であることを自らの責任で判断しなければならない取引だったことになる。地面師グループは、この土地の所有者に年齢の近い人物をなりすまし役として手配し、所有者の詳細な情報を教え込んだうえで交渉の場に立たせていた。グループは上位者、なりすまし役、なりすまし役を手配する者、上位者との連絡役などに役割が細かく分かれていた。
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63億円が交付されるまで

2017年4月24日、積水ハウスは売買契約を締結し、手付金14億円を支払った。残代金の決済は6月1日に行われている。総括検証報告書によれば、積水ハウスが交付した金額は63億819万3309円で、これは売買代金70億円から7月末に支払う予定だった留保分7億円を差し引き、固定資産税・都市計画税の清算金819万3309円を加えた額である。積水ハウスはさらに、なりすまし役との間で約7億5千万円の分譲マンション売買契約を締結してその代金を受領していたため、差し引いた被害額は約55億5900万円となった。この全額が2017年度の決算で特別損失(貸倒損失)として計上されている。契約締結前の本人確認について報告書は、通常の不動産取引で要求される一通りのことは行っており、確認した司法書士からも契約締結時まで何の疑問も示されなかったため、一般的な取引であれば問題があったとは考えられないと述べている。問題は、これが一般的な取引ではなかったことにあった。

見過ごされた異常

総括検証報告書がもっとも厳しく指摘したのは、決済に際して取引の真実性を疑わせる事象が複数起きていたにもかかわらず、それらが看過されたことである。決済日前日の2017年5月31日、なりすまし役は本登記に必要な権利証を持参しなかった。前日には仲介者から、所有者が別の関係者と喧嘩状態にあり権利証を取りに行けないという説明があり、担当の営業次長は仲介者に同行してでも回収するよう依頼していたが、結局持参されなかった。報告書は、紛失したわけでもない登記済権利証を持参しないというのは異常な事態であり、売買代金額の大きさに鑑みれば何としても持参させるよう努めるべきであったのに、安易に弁護士による本人確認情報提供での登記申請を承諾したと批判している。その際、法務部や不動産部へ相談も行われていない。さらになりすまし役は、本人確認情報の提供に際して自身の生年月日を忘れたと言ってパスポートを見ながら記入し、干支を間違えてもいた。司法書士はこれらの点を、持参されたパスポート中の氏名のローマ字表記が他の箇所とわずかに異なることの指摘とあわせて、打合せでことさら述べていた。契約締結直後には、話を聞いた不動産業者が担当者に「本当に大丈夫か」と注意喚起の連絡を入れてもいる。法務部は騙されている可能性を考えて本人確認の徹底を指示し、弁護士からは昔からの知人や旅館の加盟組合に写真で確認する方法があるとの回答も得ていた。子会社の社長も仲介者への疑問を示していた。警告は一つではなかった。

発覚と刑事裁判

取引の異常が決定的になったのは、所有権移転登記の申請が却下されたときである。真の所有者は土地を売却しておらず、登記は通らなかった。積水ハウスは同年8月2日にこの取引事故を公表している。そのときの公表文は、契約相手先が所有者から購入して直ちに転売する形式だったこと、決済日をもって弁護士や司法書士の関与の下で一連の登記申請を行ったところ、所有者側の提出書類に真正でないものが含まれていたため却下され、以降は所有者と連絡が取れなくなったことを簡潔に述べている。そのうえで「何らかの犯罪に巻き込まれた可能性が高いと判断」したとして捜査機関に被害を申し入れ、捜査上の機密保持を理由にこれ以上の詳細の開示は差し控えると結んでいた。全体像が公の資料として示されるのは、刑事裁判が一巡した3年後の総括検証報告書を待つことになる。その後、積水ハウスによる刑事告訴を契機に捜査が進み、総括検証報告書によれば、土地の所有者になりすました者を含む地面師グループ総勢10名が詐欺罪等で起訴された。2019年10月から2020年6月にかけて、起訴された全員に有罪判決が言い渡されている。報告書が作成された2020年12月の時点では、このうち6名について判決が確定し、主犯と目される者を含む4名が控訴中であった。報告書は、これらの有罪判決が極めて巧妙かつ計画的な地面師グループの犯行によるものと認定したことを記している。

総括検証委員会による原因分析

積水ハウスは、起訴された犯人グループ全員に対する第一審有罪判決が2020年6月までに出そろったことを受け、同年9月に総括検証を行うことを決定した。独立性を確保した外部の専門家に委嘱した総括検証委員会が設置され、12月7日に「分譲マンション用地の取引事故に関する総括検証報告書」が公表されている。報告書はまず、積水ハウス内部に地面師グループの詐欺行為に加担した者は存在しないと明記したうえで、関与した社員が完全に騙された原因の分析に入った。直接的な原因として挙げられたのは、契約締結前の本人確認が十分だったとはいえないこと、決済に際して真実性に疑念を生じさせる複数の事象を安易に看過して適切な対応を怠ったこと、そして契約締結から決済に至るまでに本人性を疑い慎重に調査する契機となりえた事象が複数生じていたのに適切に対応しなかったことである。報告書はこれらを、取引の真実性の確認よりも所有権移転登記手続を完了させることに専心した結果と位置づけた。

実施された再発防止策

報告書は第6章で、この取引事故を踏まえて実施された再発防止策とその実効性を検証している。中心にあるのは稟議手続の見直しである。本件では緊急を要する案件として、不動産稟議書の回議者による審査に先立って決裁権者である社長の決裁が行われ、回議者の審査が後回しにされていた。報告書によれば、こうした運用は事故前の実務ではしばしば行われてきたという。積水ハウスはこの審査を疎かにする実務を否定し、取引の過程で判明したネガティブ情報や異常事態について部署間で情報共有を行い連携を強化することを目的として、不動産稟議を含むすべての稟議手続を電子稟議システム上で完了できるものとした。これにより、稟議書を回付して部署が順番に審査するのではなく、一斉に情報にアクセスして同時に審査できるようになった。あわせて稟議に関わる部署を審査部署と情報共有部署などに分類し、役割を規程上明確にしている。もう一つ、この事件の核心に直接対応する措置がとられた。権利証が持参されず弁護士による本人確認で代用された反省を踏まえ、登記識別情報(権利証)を使用しない登記手続は原則として不動産部へ報告し、個別に審査することとしたのである。

審理・経過の流れ

  1. 事件・事故 2017年4月24日
  2. 事件・事故 2017年6月1日 +38日
  3. 判決 2019年10月 +852日

経過

  1. 2017年4月24日
    平成29年

    事件・事故 売買契約を締結し手付金14億円を支払う

    土地所有者になりすました人物が交渉の場に立っていた。

  2. 2017年6月1日
    平成29年

    事件・事故 残代金を決済、交付額は計63億819万3309円に

    前日、なりすまし役は権利証を持参せず、弁護士による本人確認情報提供で登記申請が行われた。

  3. 2017年6月6日
    平成29年

    その他 所有権移転登記の申請が却下される

    真の所有者は土地を売却しておらず、登記は通らなかった。

  4. 2017年8月2日
    平成29年

    その他 積水ハウスが取引事故を公表

  5. 2019年10月
    令和元年

    判決 地面師グループへの有罪判決が始まる

    総勢10名が詐欺罪等で起訴され、2020年6月までに全員が第一審で有罪判決を受けた。

  6. 2020年12月7日
    令和2年

    捜査 総括検証委員会が報告書を公表

    外部専門家による検証。原因分析と再発防止策の実効性を扱った。

出典・公的資料

一次資料 1件 判決文・白書・調査報告書・法令など、原典にあたれる資料を掲載しています。

関連する法律用語

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「積水ハウス地面師詐欺事件」事件JP、2026年9月18日閲覧。https://jiken.jp/cases/2017-sekisui-house-land-fraud/

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更新履歴

  • 2026年9月18日 初版公開

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