奈良医師宅放火殺人事件 通称: 奈良自宅放火母子3人殺人事件

結末 2006年10月、奈良家裁が長男を中等少年院に送致する保護処分を決定。鑑定医は2012年2月に秘密漏示罪で有罪確定

発生日 2006年6月20日(平成18年) 2006年(平成18年)の事件 / 6月20日に起きた事件
経過 発生から20年4か月 2012年2月13日の確定から14年8か月
発生場所 奈良県 磯城郡田原本町(医師の自宅)
種別 放火
状態 終結
被害 死者 3人  負傷者 0人
2006年(平成18年)6月20日午前5時ごろ、奈良県田原本町の医師の自宅で、高校1年の長男(当時16歳)が1階にサラダ油をまいて火をつけ、木造2階建ての住宅が全焼した事件。2階で寝ていた継母(当時38歳)と異母弟(同7歳)、異母妹(同5歳)の3人が一酸化炭素中毒で死亡した。奈良家裁は同年10月、殺意は未必的で程度はかなり低いとし、父の暴力を受けた成育環境などを指摘して、中等少年院送致の保護処分を決めた。翌年、少年の供述調書を引用した本が出版され、調書を見せた鑑定医が秘密漏示罪に問われ、2012年に有罪が確定した。
奈良医師宅放火殺人事件を象徴する概念イラスト
※イメージ画像(生成AIによる概念イラストであり、実際の現場・関係者を写したものではありません)

事件の経過

2006年(平成18年)6月20日午前5時ごろ、奈良県田原本町の医師の自宅から出火した。家裁の決定によると、高校1年の長男(当時16歳)が、自宅1階の台所などにサラダ油をまき、ガスコンロで火をつけたタオルで1階の階段付近に放火した。木造2階建て延べ約140平方メートルの住宅は全焼した。2階で寝ていた継母(当時38歳)と、異母弟で小学2年の男児(同7歳)、異母妹で保育園児の女児(同5歳)の3人が、一酸化炭素中毒で死亡した。 父と継母はともに医師で、父は当時、三重県の勤務先の病院で当直中だった。この日は、長男の高校で、試験の成績を伝える保護者会が開かれる予定だった。 長男は火事の後、行方が分からなくなった。22日午前8時過ぎ、京都市左京区の路上で警察官の職務質問を受けて保護され、放火を認めた。長男は殺人と現住建造物等放火の容疑で逮捕された。

家裁送致と精神鑑定

奈良地検は7月12日、長男を殺人と現住建造物等放火の非行事実で奈良家裁に送致した。家裁は同日、観護措置を決め、長男を奈良少年鑑別所に収容した。地検は、長男には確定的な殺意があったとして、成人と同じ刑事裁判を受けさせるための検察官送致(逆送)を求めた。 家裁が命じた精神鑑定の鑑定書は10月に提出され、長男を広汎性発達障害と診断した。そのうえで、犯行時には、幼少時からの父の暴力によって持続的な抑うつ状態にあったと指摘した。審判では、付添人が医療少年院への送致を求めた。これに対し地検は、広汎性発達障害は医学的に当てはまらないと主張し、逆送を求めた。

奈良家裁の決定

奈良家裁は2006年10月26日、3人を死亡させた非行事実を認定したうえで、長男を中等少年院に送致する保護処分を決めた。決定書は公開されていないため、以下は新聞に掲載された決定要旨による。 決定は、長男には継母らに対する未必の殺意があったと認めた。一方で、長男が放火を思い付いたのは父を殺害する手段としてであり、亡くなった3人に対しては確たる殺害の動機が全く見当たらないとした。殺意の程度は「未必の殺意の中でも、かなり低いものであった」と判断した。 成育環境について、決定は次のように述べている。長男は幼少時から医師になることを過剰に期待され、父の監視の下で長時間の勉強を強いられ、強い暴力を受け続けてきた。親族や担任教師が介入しても、暴力はやまなかった。決定はさらに、父も暴力にストレス解消の面があったことを認めているとして、「父が抱える問題性は大きい」とした。 逆送しなかった理由について、決定は、刑務所での処遇は父による支配的な養育環境と相似形になるおそれがあるとした。中等少年院の個別処遇で発達障害にも十分対応できるとして、医療少年院ではなく中等少年院を選び、「相当長期の処遇が必要」との意見を付けた。地検は抗告受理の申し立てをせず、決定は確定した。

供述調書の漏えいと鑑定医の有罪

2007年5月21日、長男や父の供述調書を引用した本『僕はパパを殺すことに決めた』が講談社から刊行された。法務大臣は6月5日の記者会見で「まことに遺憾」とのコメントを出し、講談社と執筆者には抗議書が送られた。東京法務局は7月12日、少年のプライバシーを著しく侵害しているとして、執筆者と講談社に勧告した。 奈良地検は2007年10月14日、少年の精神鑑定を担当した医師を、刑法の秘密漏示容疑で逮捕し、11月に起訴した。医師は、家裁から借りた鑑定資料に含まれる供述調書などを、審判の進行中にフリージャーナリストに閲覧させていた。フリージャーナリストは嫌疑不十分で不起訴になった。 奈良地裁は2009年4月15日、医師に懲役4月・執行猶予3年(求刑懲役6月)を言い渡した。判決は、非公開の少年審判の制度の趣旨に反し、長男と父のプライバシーへの配慮を欠いた「非常に軽率な行為」だとした。最高裁によると、記録が残る1978年以降、秘密漏示罪で判決が出たのは初めてだった。大阪高裁も一審判決を維持した。 最高裁第二小法廷は2012年2月13日付で上告を棄却し、有罪が確定した。決定は、家裁から鑑定を命じられた医師が、鑑定の過程で知った秘密を正当な理由なく漏らせば秘密漏示罪に当たると判断した。そのうえで、漏らした秘密には鑑定を受けた本人以外の秘密も含まれ、漏らされた少年と父には告訴権があるとした。厚生労働省は同年11月、医師を医業停止1年の行政処分とした。

審理・経過の流れ

  1. 事件・事故 2006年6月20日
  2. 逮捕 2006年6月22日 +2日
  3. 逮捕 2007年10月14日 +479日
  4. 起訴 2007年11月2日 +19日
  5. 判決 2009年4月15日 +530日
  6. 判決 2009年12月17日 +246日
  7. 判決 2012年2月13日 +788日

経過

  1. 2006年6月20日
    平成18年

    事件・事故 田原本町の医師宅で高校1年の長男が放火し、継母と異母弟妹の3人が死亡

    木造2階建て住宅が全焼。死者3人(一酸化炭素中毒)。

  2. 2006年6月22日
    平成18年

    逮捕 京都市左京区で長男が見つかり、殺人と現住建造物等放火の容疑で逮捕

  3. 2006年7月12日
    平成18年

    その他 奈良地検が長男を奈良家裁に送致(逆送を求める意見)

    奈良家庭裁判所

  4. 2006年10月26日
    平成18年

    その他 奈良家裁が長男を中等少年院に送致する保護処分を決定

    未必の殺意を認定し、程度はかなり低いと判断。相当長期の処遇の意見を付けた。

    奈良家庭裁判所

  5. 2007年5月21日
    平成19年

    その他 少年の供述調書を引用した本が講談社から刊行される

  6. 2007年7月12日
    平成19年

    その他 東京法務局が執筆者と講談社にプライバシー侵害で勧告

  7. 2007年10月14日
    平成19年

    逮捕 奈良地検が精神鑑定を担当した医師を秘密漏示容疑で逮捕

  8. 2007年11月2日
    平成19年

    起訴 奈良地検が医師を秘密漏示罪で起訴

    フリージャーナリストは嫌疑不十分で不起訴。

  9. 2009年4月15日
    平成21年

    判決 奈良地裁が医師に懲役4月・執行猶予3年の判決

    求刑は懲役6月。

    奈良地方裁判所

  10. 2009年12月17日
    平成21年

    判決 大阪高裁が一審判決を維持

    大阪高等裁判所 (事件番号: 平成21年(う)第702号)

  11. 2012年2月13日
    平成24年

    判決 最高裁が上告を棄却し、医師の秘密漏示罪での有罪が確定

    懲役4月・執行猶予3年。

    最高裁判所第二小法廷 (事件番号: 平成22年(あ)第126号)

  12. 2012年11月14日
    平成24年

    その他 厚生労働省が医師を医業停止1年の行政処分に

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「奈良医師宅放火殺人事件」事件JP、2026年11月8日閲覧。https://jiken.jp/cases/2006-nara-doctor-home-arson-murder/

更新履歴

  • 2026年11月6日 初版公開

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