長崎市長射殺事件

発生日 2007年4月17日(平成19年)
経過 発生から19年5か月 2012年1月16日の確定から14年8か月
発生場所 長崎県 長崎市(大黒町・JR長崎駅近くの選挙事務所前)
種別 テロ・無差別襲撃
状態 判決確定
被害 死者 1人  負傷者 0人
2007年(平成19年)4月17日夜、長崎市大黒町のJR長崎駅近くの選挙事務所前で、4選を目指して市長選挙の運動中だった伊藤一長市長(当時61歳)が、山口組系暴力団の幹部の男に背後から拳銃で2発撃たれ、翌18日未明に死亡した事件。男は市への不当な要求が通らなかったことを逆恨みしていた。選挙期間中に現職市長が殺害されたことは「行政対象暴力の極み」とされ、銃刀法と暴力団対策法の改正につながった。長崎地方裁判所は2008年5月に死刑を言い渡したが、福岡高等裁判所は2009年9月、殺害されたのが1人であることなどから無期懲役とし、最高裁判所が2012年1月16日に検察・被告双方の上告を棄却して無期懲役が確定した。長崎市長が銃撃されたのは、1990年の本島等市長に続き2代続けてだった。
長崎市長射殺事件を象徴する概念イラスト
※イメージ画像(生成AIによる概念イラストであり、実際の現場・関係者を写したものではありません)
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事件の経過

2007年4月15日、第16回統一地方選挙の後半戦として長崎市長選挙が告示された。投票日は4月22日で、4選を目指す現職の伊藤一長市長と新人3人が立候補していた。伊藤市長は被爆地の市長として、核兵器の廃絶を訴えてきた。 告示から2日後の4月17日午後7時50分過ぎ、遊説を終えた伊藤市長は、JR長崎駅に近い長崎市大黒町の選挙事務所前に戻った。最高裁判所の決定によると、男は事前に市長の動向を探り、実弾を装塡した拳銃を持って選挙事務所の近くで待ち伏せていた。そして市長に至近距離まで近づき、背後から拳銃の弾丸2発を発射して、2発とも背中に命中させた。付近には市長の支援者をはじめ、多くの通行人がいた。 伊藤市長は長崎大学病院に搬送されて手術を受けたが、翌18日未明に死亡した。61歳だった。 男はその場で選挙事務所の関係者らに取り押さえられ、駆けつけた警察官に殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された。市長の死亡後、容疑は殺人に切り替えられた。男は山口組傘下の暴力団の幹部だった。
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動機 ― 行政対象暴力

最高裁判所の決定は、犯行の動機を次のように認定した原判決の事実を前提にしている。男は長崎市に対して不当な要求を繰り返していたが、市は伊藤市長の方針で暴力団からの不当要求に屈しない姿勢をとっていたこともあり、取り合わなかった。男はこれを逆恨みして恨みを募らせ、市長が次の市長選挙に立候補することを知ると、市長を殺害して当選を阻むことで恨みを晴らし、あわせて世の中を震撼させる大事件を起こして自らの力を誇示しようと考えた。 最高裁はこの犯行を「行政対象暴力の極みともいうべき」ものとし、動機は極めて反社会的で酌量の余地はないと述べている。 平成19年版警察白書も、この事件を暴力団対策の章で事例として取り上げ、男が自らの要求に対する長崎市の対応に不満を募らせるとともに、資金面で行き詰まって自暴自棄となっていたところ、市長が立候補の意思を明らかにしたのを機に殺害を企てたと記している。 長崎市長が銃撃されたのは、1990年1月に本島等市長が右翼団体の構成員に撃たれて重傷を負った長崎市長銃撃事件に続き、2代続けてのことだった。

市長選挙と国会での議論

候補者が死亡したため、公職選挙法に基づいて補充立候補が認められた。伊藤市長の娘婿で新聞記者の男性と、長崎市の統計課長だった田上富久が新たに立候補し、投票日までわずか数日の選挙戦となった。 4月22日の投開票の結果、田上が78,066票を得て、77,113票の娘婿の男性を953票差で破り、初当選した。投票率は55.14%だった。 国会でもこの事件は取り上げられた。2007年11月の衆議院内閣委員会では、銃刀法の改正案の審議で、長崎市長射殺事件などが相次いだことが法改正の背景であると指摘された。国家公安委員会委員長は参議院内閣委員会で、2007年は10月末までに拳銃の発砲事件が49件発生して前年同期より7件増え、死傷者も27人と14人増えていると答弁し、長崎市長の事件を例に挙げて、拳銃を用いた犯罪は「社会に対する挑戦」だと述べている。

刑事裁判 ― 死刑から無期懲役へ

男は殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、公職選挙法違反(選挙の自由妨害)、火薬類取締法違反の罪で起訴された。 2008年5月26日、長崎地方裁判所(松尾嘉倫裁判長)は男に死刑を言い渡した。時事通信によると、判決は男が市長の立候補表明の直後に殺害を決意していたとして「犯行は計画的で殺意は強固」と述べた。殺害された被害者が1人の事件での死刑判決は異例で、弁護側は控訴した。 2009年9月29日、福岡高等裁判所は一審判決を破棄し、男を無期懲役とした。最高裁の決定が要約する控訴審判決の理由は次のとおりである。男の刑事責任は誠に重大だが、殺害されたのは1人であることを考慮する必要がある。組織内で孤立し、経済的に困窮して病気などで自暴自棄になる中、市への不当要求が思いどおりにならずに思い詰め、いわば暴発したという側面もあり、経済的利益を得る目的はなかった。また政治的信条に基づいて主義主張を実現する手段として行ったものではなく、主な動機は市長への恨みで、選挙妨害そのものを目的としたものではない。以上を総合すると、死刑を選択することには「なおちゅうちょせざるを得ない」。 検察側と男の双方が上告した。2012年1月16日、最高裁判所第三小法廷(寺田逸郎裁判長)は双方の上告を棄却する決定をした。決定は、犯行の計画性・残忍さ・危険性、被爆地の市長として核兵器廃絶を訴えてきた市長の命を奪った結果の重大さ、選挙妨害の結果、遺族の峻烈な処罰感情、社会への影響の甚大さを挙げたうえで、控訴審の判断は「首肯し得ないではなく」、無期懲役とした刑の量定が甚だしく不当とはいえないとした。裁判官全員一致の意見だった。これにより無期懲役が確定した。 男は2020年1月、服役先の大阪医療刑務所で死亡したと報じられている。

銃器対策と暴力団対策への影響

平成20年版警察白書は、2007年の銃器情勢を、長崎市長が射殺された事件や暴力団の対立抗争に伴う発砲事件などが相次ぎ、一般市民が死傷する「極めて厳しい状況」と総括している。同年の銃器発砲事件は65件、死傷者は39人で、前年よりそれぞれ12件、20人増えた。 白書によると、政府は2007年4月の銃器対策推進本部の会合で同年度の銃器対策推進計画を策定し、関係省庁のプロジェクトチームは6月に「銃器犯罪抑止のための更なる施策について」を取りまとめた。これを受けて、全国統一のフリーダイヤルで拳銃に関する情報を受け付け、検挙や押収につながった情報に報奨金を支払う「けん銃110番報奨制度」が導入された。 さらに、暴力団による拳銃事件の特性に着目して罰則を強化する銃砲刀剣類所持等取締法及び武器等製造法の改正法が2007年11月に成立し、12月30日に施行された。組織的に、または暴力団の不正な権益のために拳銃を発射する行為を「無期又は5年以上の懲役」と3,000万円以下の罰金で罰する規定や、拳銃を複数所持する行為の加重処罰などが新設された。参議院では全会一致で可決されている。 2008年には暴力団対策法も改正された。国会での提案理由説明によると、指定暴力団の代表者の損害賠償責任の規定などとあわせて、指定暴力団員が組の威力を示して行政庁に許認可などを要求する行為を、規制対象の「暴力的要求行為」に加えた。時事通信は、不当要求に応じない市を逆恨みした犯行とされたことから、銃刀法と暴力団対策法が改正されたと伝えている。

審理・経過の流れ

  1. 事件・事故 2007年4月17日
  2. 逮捕 2007年4月17日 +0日
  3. 判決 2008年5月26日 +405日
  4. 判決 2009年9月29日 +491日
  5. 判決 2012年1月16日 +839日

経過

  1. 2007年4月15日
    平成19年

    その他 長崎市長選挙が告示

    4選を目指す現職の伊藤一長市長と新人3人が立候補。投票日は4月22日。

  2. 2007年4月17日
    平成19年

    事件・事故 選挙事務所前で伊藤市長が銃撃される

    JR長崎駅近くの選挙事務所前の歩道で、背後から拳銃で2発撃たれる。市長は翌18日未明に死亡。

  3. 2007年4月17日
    平成19年

    逮捕 暴力団幹部の男を現行犯逮捕

    殺人未遂容疑で現行犯逮捕。市長の死亡後、殺人容疑に切り替え。

  4. 2007年4月22日
    平成19年

    その他 補充立候補した田上富久が市長に当選

    伊藤市長の娘婿を953票差で破る。

  5. 2007年12月30日
    平成19年

    その他 改正銃刀法が施行

    組織的・不正権益目的の拳銃発射罪(無期又は5年以上の懲役+3,000万円以下の罰金)などを新設。

  6. 2008年5月26日
    平成20年

    判決 一審で死刑判決

    「犯行は計画的で殺意は強固」と判断。弁護側が控訴。

    長崎地方裁判所

  7. 2009年9月29日
    平成21年

    判決 控訴審で一審を破棄し無期懲役

    殺害されたのが1人であること、選挙妨害そのものが目的ではないことなどから死刑を回避。検察・被告の双方が上告。

    福岡高等裁判所

  8. 2012年1月16日
    平成24年

    判決 上告棄却により無期懲役が確定

    検察・被告双方の上告を棄却(裁判官全員一致)。

    最高裁判所第三小法廷 (事件番号: 平成21年(あ)第1877号)

出典・公的資料

一次資料 7件 判決文・白書・調査報告書・法令など、原典にあたれる資料を掲載しています。

関連する法律用語

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レポート・記事などで本ページを参照する際は、以下の表記をご利用ください。

「長崎市長射殺事件」事件JP、2026年10月5日閲覧。https://jiken.jp/cases/2007-nagasaki-mayor-assassination/

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更新履歴

  • 2026年10月4日 初版公開

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